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SHIFT・ユーグレナの「IRの挑戦の軌跡」事業の理解を促すこだわりの開示を解説
2023年8月1日にグロース・キャピタル株式会社主催で行われた、Growth CFO Summit Vol.9。セッション6のテーマは「IRの挑戦の軌跡~取り組みの変遷とその中での気付き~」です。ユーグレナの若原CFiO、SHIFTの山路執行役員、グロース・キャピタル 嶺井の3名で過去に開示した資料を振り返りながらディスカッションを行いました。
登壇者
■ セッション6「IRの挑戦の軌跡~取り組みの変遷とその中での気付き~」
嶺井政人(以下、嶺井):次のセッションのテーマは「IRの挑戦の軌跡」と題しまして、SHIFTとユーグレナのIRの挑戦の軌跡に迫っていきたいと思います。
この2社は、公開価格ベースでIPOのタイミングの時価総額が約40億円、2桁億円で上場されました。その後、マーケットで評価されながらユーグレナは1,000億円、SHIFTは6,000億円まで時価総額が成長しています。ここまでの道のりは決して平坦ではなかったと思います。その挑戦の軌跡について深掘りして聞きたいと思います。

■ 各登壇者の自己紹介
嶺井:それではセッションを始めます。まず登壇者のご紹介からいきたいと思います。若原さんお願いします。
若原智広氏(以下、若原):若原と申します。今、執行役員でCFiO(Chief Financial Officer)をしております。もともと証券会社で株式・債券の引受やM&A等をやった後、2013年8月にユーグレナへ入社しました。実は入社してちょうど10周年なんです。主にM&A、ファイナンス、IR、管理会計など諸々やっています。また、私がメインスピーカーとして機関投資家IRもさせていただいております。よろしくお願いします。
嶺井:皆さんユーグレナのことはご存じかと思います。若原さんがご準備くださったスライドは上場後、約10年経った中での株価推移や資金調達、成長投資などのグラフです。事業のご紹介と共にIRの軌跡とでも言いましょうか。どういうフェーズがあったのか、ご紹介お願いします。
若原:まずユーグレナは、和名で言うミドリムシから始まった会社です。今はフィロソフィーとしてサステナビリティを掲げており、ヘルスケアやバイオ燃料など、ミドリムシから広がってサステナビリティを軸に様々な事業を展開しています。ちょうど去年、上場10周年を迎えて売上高が約30倍、調整後EBITDAも約8倍ということで順調に成長しています。
右側は株価と株主数の推移ですが、大きく4つにステージを分けると、まずは上場直後から2016年ぐらい。上場して東証一部に鞍替えをして、株価も順調に上がっていた頃です。このあたりはミドリムシをメディアでも色々と取り上げていただき、国内公募増資も実施したり、個人の株主の方がどんどん増えてきた時期だったかと思います。
そこから残念ながら株価がずっと右肩下がりで苦しい時期がありました。この時期は、主に国内外で機関投資家IRに力を入れていました。上場以降の数年で株価が個人の方の期待で大きく上昇し、機関投資家が買いにくいバリュエーション水準になっていると分析していました。そんな中で、機関投資家の方に成長ストーリーとファンダメンタルな収益力を理解いただくことで、株価が下がった時に買い支えていただける素地を作るために国内、あるいは海外の機関投資家のIRをしてきたのが2018年ぐらいまでだったかと思います。
結果的に2018年9月期のちょうど株価が底を打ったぐらいで、海外の機関投資家の比率が上がり始めました。(スライド右側のグラフの)点線の上側が国内金融機関で、下側が海外です。外国の機関投資家が増えたのは2019年3月でした。株価が底を打ったあたりで入っていただけたのは、ストーリーを伝え続けてきたからではないかと思っています。
そこからまた少しずつ成長しています。公約としてバイオ燃料の実現を掲げてきた中で、初フライトを遂げてニュースにも取り上げていただいたので、個人の株主の方も一気に増えました。いよいよ商業化するリアリティを感じてもらえた結果、機関投資家の比率や個人の株主数が増えている推移になっています。
嶺井:今伺ったところも深掘りして聞きたいと思うので、よろしくお願いします。それではSHIFTの山路さん、よろしくお願いします。
山路亜紀氏(以下、山路):皆さん、はじめまして。山路亜紀と申します。SHIFTで執行役員兼広報IR部の部長をしております。SHIFTの創業は2005年、私は2008年に入社したので、社員番号が9番目のメンバーになります。
嶺井:かなり初期ですね。
山路:そうですね。私が入った時は創業まもないベンチャーで「ベンチャー企業の業務といえば」ということを隅から隅まで経験させていただきました。新卒の採用をやったり、メインでは製造業向けのコンサルティングのために5年ほど地方に通いました。その後、2013年から1年間、広報を担当した後に2014年11月に上場が決まったタイミングでIRに従事させていただいて、今に至ります。
弊社は少しニッチなサービスをしておりまして、ソフトウェアの品質保証、第三者検証テストをしている会社です。
投資家さんにプレゼンする際、いつも掲げているマーケティングトークがあります。「今日は3つだけ覚えて帰ってください」とよく言うのですが、1つは「ソフトウェアテストという市場は今日本で5.5兆円あって、競合他社さんがほとんどいないブルーオーシャンの市場で成長しています」ということ。
2つ目は、昨今IT人材の不足や社会課題もありますが、IT業界を経験したことのない人を採用して、IT業界で活躍してもらえる仕組みを作っている会社であるということ。そういう非ITエンジニアの活躍できる市場を作ったことを謳っています。
そして3つ目は、最近はソフトウェアテストのみならず、テストという開発の下流工程を基軸に上流の開発やコンサルティング、もしくはソフトウェアのローンチ後のカスタマーサポートまでトータルでサービスを展開させていただいています。スライドに「IT総合サービス」と書いていますが、グループ会社も含めてそういった企業群を目指して事業拡大を進めている会社です。このようにお伝えしています。
嶺井:ぜひ山路さんからも簡単に上場からフェーズごとの振り返りをいただければと思います。スライドに「塩漬け迷走期」「国内攻略」「海外進出」と書いてありますが、どういうことがあったのかを聞かせてください。
山路:2014年11月にマザーズに上場させていただいて、そこから2年ぐらいは迷走期でした。株価は全く動かず、機関投資家さんも入ってくれず、面談もなかなか組めなくて個人投資家さんからお叱りの電話を受ける日々が続いていました。
2017年の少し前、開示の仕方やコミュニケーションの取り方、資料の作り方などを変える段階がありました。徐々に機関投資家さんにリーチできるようになってきて、そこからだんだんと株価が上がっていきます。
「国内攻略」と書いている2017年から2019年は国内の機関投資家さんと徹底的に会って良さを知ってもらう、株主になってもらうためにありとあらゆる活動をして時価総額を上げていきました。
徐々に時価総額が上がっていく段階で、海外の投資家さんからの問い合わせが少しずつ増え始めたので、それをきっかけに英文での開示を作っていきながら海外に向けて出ていきました。海外の機関投資家さんとの面談も積極的に組みながら、株主ポートフォリオを形成しているのが現在です。
嶺井:この後にも触れさせていただくのですが、国内の機関投資家、そして海外の機関投資家の比率がどんどん高まっている歴史ですよね。時価総額を上に載せてくださっているのですが、どの時価総額あたりから国内機関投資家、海外機関投資家から連絡が来たり、反応が良くなったりしましたか。
山路:国内の機関投資家さんからは、時価総額100億円手前ぐらいで徐々に連絡をいただいていて、海外の投資家さんに関して言うと500億円、1,000億円といったキーポイントをたまに聞くのですが、まさにそれでした。実際に時価総額が500億円を超えたあたりで問い合わせが入り始めました。1,000億円を超えたあたりで、なんとなく景色が広がるというか、見えている世界が変わってきた実感を受けました。
嶺井:国内機関投資家とのコミュニケーションを頑張って、500億円にたどり着いたあたりで海外から問い合わせをいただいたり、こちらからのアクションを増やしていったりということですね。
山路:そうです。
嶺井:私の自己紹介は簡単にいきます。本イベントを主催しておりますグロース・キャピタルの嶺井です。今年でこのイベントも9年目となりました。
私はもともとベンチャー企業でCFOをしていた人間です。会社が上場して、上場ベンチャーのCFOや副社長をしていました。上場前と上場後を経験する中で、上場後の支援が途端に手薄になると感じまして、上場ベンチャーや上場スタートアップの成長を支援するために当社を創りました。
本イベントは、私がCFO時代から細々と始めていたものが少しずつ大きくなって、本日は700名近くの方にお集まりいただいたイベントとなっています。
嶺井:弊社では上場ベンチャーの成長サイクルに寄り添った2つのサービスをご提供しています。非連続な成長に向けたIRのご支援と、成長投資に向けた資金調達のご支援をするサービスです。改めてよろしくお願いします。
■ 本日のテーマ
嶺井:こちらが本日のテーマです。事前にそれぞれのパートでポイントになる開示資料をピックアップしていただきました。
■ こだわりの開示
嶺井:一つ目のテーマ「自社の事業を理解してもらうためのこだわりの開示」について、ユーグレナの若原さんから伺っていこうと思います。
嶺井:こちらの開示資料(スライド)をピックアップしたのは、どういう背景でしょうか。
若原:ベーシックなスライドなのですが、我々はヘルスケア事業やバイオ燃料事業と、その他事業、例えばバングラデシュでの緑豆事業や、国内での肥料事業などがあります。特に機関投資家や初めての方からすると一見まったく関係なさそうに見えることを、なぜやっているのか疑問を持たれることがあります。
当然会社のストーリーも語るのですが、我々の軸として「Sustainability First」、すべての事業の成長が社会課題の解決につながるように目指していることを納得いただくために大事なスライドだと思っています。

嶺井:続いて、こちらのスライドはどういう意図でしょうか。
若原:ベンチャー企業なので、将来の成長の絵姿を、個人や機関投資家の方に見せることが大事だと思っています。見せ方はその時々で変遷はありますが、出せる数字、出せない数字などに悩みつつ、こういうスライドを出しています。
特に我々は今、2025年にバイオ燃料の商業プラントを建てると言っています。建てたらどうなるかをビジュアルで伝えるという意味で、このスライドは常に見せていますね。足元の業績よりも、常に先を見ていただくという意味で大事なスライドだと思っています。
嶺井:CFOの皆さんと話していると、将来目指している数字のイメージを投資家に伝えたいけれども、蓋然性の高い数字はまだ出せないので悩まれている方が多いです。
こちらのスライドは数字を載せているわけではないけれども、イメージが持ちやすいですね。各事業の成長について、どういう構造で、どのタイミングで、どう成長を描いているのか表現されているので、すごく勉強になると思いました。
若原:正直、2026年の売上高を「1,000億円」と書いてある点については少し突っ込んでいるのですが、今の倍ぐらいというイメージを持っていて、我々もそこを目指しています。数値がブレるリスクがあったとしても、こういう図を見せた方が絶対にいいとよく言われますよね。何もないと足元の話ばかりになってしまって成長が伝わらない、目指している思いが伝わらないことがあると思います。
嶺井:次にこちらのスライドもあげていただきました。ぜひ背景をお聞かせください。
若原:同じような話になるのですが、バイオ燃料のプラントは先が長い話です。今も設計していて時間がかかる中で、自分たちがこれまで何をやってきて、これから何を目指しているのか、そして、自分たちの立ち位置がどこなのか。四半期ごとにデザインは変わっていますが、進捗を着々と見せています。未来のポテンシャルと過去のトラックレコードと今の立ち位置を見せるスライドになっています。
特にバイオ燃料はPLの数字がまだありません。だからこそ、こういうスライドで少しでも進捗を伝えています。売上高が500億円、EBITDAが100億円というのも悩みながらも記載することを決めました。これぐらい出さないと、機関投資家はバリューションの参考にできません。数字のイメージを持っていただくために、IRでは多少リスクを取って出しています。
嶺井:本日はこのスライドを出されていますが、その他に「リットル当たりいくらだったら、こういう業績数字だ」という資料も出されているので「なるほど。こういう前提で、こういう数字を出しているんだ」と機関投資家や投資家の方が理解できるようにスライドを作っていますよね。
若原:そうです。
嶺井:事業ポートフォリオの中で、一部PLが立っていない先行投資型の事業を持っている御社が出している、過去のトラックレコード、そして、これから目指す未来と足元の構造がどのようになっているのか。これらを紹介することで投資家の理解を促すのは、多くのDeep Tech企業の参考になると思います。
嶺井:続いて、こちらのスライドもあげていただきました。どういう意図でしょうか。
若原:成長だけだと「大丈夫?」となりますよね。足元の業績という視点もあるので、ヘルスケア事業で稼いでいることと、この稼いだキャッシュで投資をしていることを伝えています。これは機関投資家の方を意識して作っています。安定したキャッシュフローと成長への投資というポートフォリオになっていることを説明するために、こういうスライドを使っていました。
嶺井:このスライドが出てきたのは、投資家から質問があったからでしょうか。
若原:他のヘルスケア通販の会社さんと比べると、EBITDAマージンや利益率が低く見えるんですよね。ただのコンプスで見られると「バリュエーション上、大丈夫?」と不安視されます。M&Aもあるので、EBITDAを使っているのもそうです。「ここはキャッシュフローを生み出していて、将来投資の資金ソースになっている」「ここは投資をして、こういった将来のキャッシュフローにつながっていく」という点で、今の業績よりも将来のポテンシャルを評価いただく必要があるため、作ったスライドですね。
嶺井:山路さん、気になった点はありますか。
山路:投資家からどう見られているのか、同業他社さんと比べることは、うちも少なからずあります。そういった時に先回りをして数字を出していくのが大事だと思って聞いていました。

嶺井:ユーグレナさんも上場されて10年以上経って、事業はもちろん変遷しているのですが、開示内容もどんどん変わっていて充実していますよね。
若原:毎四半期ごとに悩みながらやっている部分もありますし、M&Aなどで事業のポートフォリオが変わった影響もあります。しかし、軸をぶらさない方がいいと思っているので、目指してきたレールに乗りつつ、変化をうまく伝えていくバランスが大事だと思います。
嶺井:続いて、山路さんに伺いたいと思います。山路さんには、3つのスライドをピックアップしていただきました。
嶺井:こちらは統合報告書の1ページですが、どういう意図でご用意いただいたのでしょうか。
山路:お伝えしたいのは「属人化を排除した仕組み化の徹底」という点です。弊社のソフトウェアテストは人と支援ツールと、そこにたまった不具合のデータという3つを掛け合わせて、人の能力に影響されないアウトプットを出すことが根本にあります。
弊社は今、年間で140%ぐらい成長している中で非線型なものを作っていく時に、投資家さんがリスクを見てしまうのですが、すべてにおいて根底に仕組み化があるので、そういった面での安心感は常に投資家さんと対話をしています。
何か起こったときにも仕組みになっているので、原因や打ち手が明確です。いつ改善されるのか、はっきりコミュニケーションが取れるようになっています。ベースのコア・コンピタンスは言い過ぎですが、そういう点でこちらを選びました。
嶺井:続いて「事業成長の方程式」のスライドをあげていただきました。こちらはいかがですか。
山路:弊社のビジネスがシンプルなこともあるのですが、こちらも仕組み化というか、構造化を表したスライドになります。売り上げを作るものは供給側でエンジニアの1人当たりのフィー、単価×エンジニアの数です。需要側で言うと、お客様1社当たりから頂く単価と顧客数で売り上げが構成されます。
この4つをKPIとして「これを見てください」と投資家さんにお伝えしたのが2017年の頃です。株価がグッと上がり、株主が増える一つのきっかけになったのでこちらをピックアップしました。
嶺井:すごくシンプルに「エンジニア単価×エンジニア数、顧客単価×顧客数がKPIです」と開示を出している会社さんはあるのですが、力強く伸びているのが美しいですよね。本当にすごいと毎回思います。
山路:ここまでシンプルになると、社内でもコミュニケーションの取り方がすごくわかりやすいし、メンバーにとっても何を追うべきか明白なので動きやすくなりましたね。
嶺井:そして、こちらのスライドを3枚目としてあげていただきました。
山路:こちらには売り上げを載せていないのですが、上場した頃から「1兆円を目指します」という話をずっとしていました。若原さんも先ほどお話しされましたが、将来どこを目指して今があるのかを開示しながらブラッシュアップして「ここを目指しています」と常に意識的に出しています。
嶺井:今日時点で100倍近いPERがついているのは、SHIFTの今後の成長を多くの投資家が信じてくれているからですよね。まさにこのスライドから伝わっているのだと思いました。
一般的にはミルフィーユ図と言われていて、こういった図は多くの会社さんが出されていると思います。こちらをもとに伝える内容について、他社さんと違うポイントはありますか。
山路:こちらは情報をかなり削ぎ落としたスライドなのですが、この裏に「コミットではないですよ」というマイルストーンの数字を細かく置いています。それを投資家さんと共有しています。それをもとに「何年後、ここに行くには今はスケジュール通りですか」「先行していますか」という話をよくさせていただきます。
嶺井:「SHIFT1000」「SHIFT3000」というワードを別の資料で出されていますね。
山路:そうです。マイルストーンの数字を持っています。
嶺井:それがあるので、投資家はより評価ができるということですね。
山路:振り返ってみると、意外と当たっているんですよ。そういう話もしながら投資家さんとコミュニケーションを取っています。